温泉の効能
湯治
「湯治」という言葉があるように、日本では古くから温泉が病気や外傷の治療に用いられてきました。近年では、リハビリテーション(リハビリ)に応用され、効果をあげており、近代的医療設備をもったクアハウスも各地にできています。
では、なぜ温泉は効果があるのでしょうか。
物理的効果と化学的効果
温泉の効果は、大きく物理的効果と化学的効果との二つに分けることができます。
物理的効果
物理的効果は、温熱、水圧、浮力によるもので、体を温め、皮膚を清潔にし、発汗作用、新陳代謝機能、呼吸運動や心臓の機能を高めたり、水の中では動きが楽になるため、リハビリテーションに効果があるといったことです。
化学的効果
一方、化学的効果は、入浴したり、飲用したりすることによって温泉に含まれる成分が皮膚や消化器官から吸収されて、薬理的効果をあげるというものです。
こちらは、物理的効果とちがい、成分によって効能もちがってきます。そこで、含有物質などによって一般に11種に分類されている泉質それぞれについてその効能を紹介することにします。
温泉の種類
単純温泉
1kg中に含まれる成分が1000㎎未満
泉温が34度C以上と高く、鉱水1kg中に含まれる成分が1000㎎未満のものをいい、無色透明で無味無臭のものが多く、石けんもよく溶けます。
湯がやわらかで、入り心地が良い
湯がやわらかで、入り心地のよいのが特徴。体への刺激も少なく高齢者にも向いています。神経痛やリウマチ、中風、神経マヒ、動脈硬化症のほか、骨折や外傷の治療にも効きます。飲用すると、胃粘膜に軽い刺激を与え、胃炎に効果があり、また、利尿作用もあります。
食塩泉
食塩を含む温泉
食塩を含む温泉で、わが国で最も多い泉質です。入浴すると塩分が皮膚について汗の蒸発を防ぐため、入浴後も体がポカポカと温かく、寒い冬にはうれしい温泉です。
熱の湯
保温効果が高いので"熱の湯"とも呼ばれます。
リウマチ、神経痛、腰痛、筋肉痛、外傷の後遺症などに効果があります。塩分の少ない弱食塩泉は、冷え症、婦人病、不妊症などによく効きます。
弱食塩泉を飲用すると、胃腸のはたらきを活発にし、便秘、慢性胃カタル、胃酸減少症などに効果があります。ただし、高血圧症、心臓病、腎臓病の人は、多飲厳禁。
単純炭酸泉
清涼味のある温泉
炭酸ガスが溶けこんでおり、無色透明でわずかに酸味があり、サイダーのような清涼味のある温泉です。温度が上がると炭酸ガスが気化してしまうため、冷鉱泉や低温泉に多いのが特徴です。
心臓の湯
炭酸ガスには毛細血管を拡張させる作用があり、血液の循環をよくし、血圧を下げる効果があります。このため、心臓の負担を軽くしてくれ、"心臓の湯"とも呼ばれています。
このほか、婦人病、不妊症、リウマチにも効きます。また、飲用すると胃腸のはたらきを活発にし、利尿作用もあります。
重曹泉
アルカリ泉
重曹が主成分の温泉で、「アルカリ泉」とも呼ばれます。無色透明で石けんもよく溶けます。
入浴すると、皮膚の表面を軟化させ、皮膚表面の脂肪や分泌物を乳化して洗い流し、入浴後は肌がツルツルになります。このため"美人の湯"とも呼ぼれています。
皮膚病、やけど、創傷、肝臓病などに効果があります。また、飲用すれば、重曹が胃酸を中和し、胃の中で炭酸ガスを発生させて胃のはたらきを活発にします。
食前に温めて飲むと胃酸過多症や胃潰瘍によく効き、便秘には食後冷たくして飲みます。さらに、胆汁の分泌を促すので胆のうの病気や糖尿病にも効果があります。
明ばん泉(みょうばんせん)
「硫酸塩」とも呼ばれます。「酸性明ばん泉」や「酸性明ばん緑ばん泉」のかたちで湧出することの多い温泉。
皮膚疾患や水虫、結膜炎
皮膚や粘膜を引き締める作用が強く、慢性の皮膚疾患や水虫、結膜炎など粘膜の炎症によく効きます。」昔は、ガーゼで覆って目を洗ったことから、"目の湯"として知られています。
重炭酸土類泉
いかめしい名ですが、カルシウムやマグネシウムなど土類イオウを含んだ温泉です。
アレルギー疾患
これらの土類イオウには鎮静作用があり、けいれんを緩和したり、消炎効果があるため、アレルギー疾患や慢性の皮膚病、ジンマ疹などに卓効があります。
飲用すると、利尿作用があり、尿酸の排出も促すので、膀胱炎や尿酸結石、痛風などに効きます。血糖値を下げるため糖尿病にもよく、さらに、胃腸内で異常発酵した酸を中和し、カルシウムが腸の運動を鎮あるので慢性の胃腸病にもよく効きます。
イオウ泉
ゆで卵の腐ったようなにおい
イオウを多く含む温泉で、ゆで卵の腐ったようなにおいがし、白く濁っているのが特徴。石けんはまったくといってよいほど役に立ちませんが、最も温泉らしい湯の香が漂っているのがこのイオウ泉といえましょう。
療養の効果が最も高い
イオウ泉は療養の効果が最も高いとされ、応用範囲も広いです。
イオウには解毒作用があり、金属や薬物の中毒をはじめ、慢性の皮膚病、リウマチ、神経痛、糖尿病、便秘などによく効きます。また、毛細血管や冠状動脈、脳動脈を拡張させる作用もあり、動脈硬化症、白ろう病、しもやけにも効果を発揮します。
痛風や慢性の便秘には飲用します。ただし、浴用、飲用ともに刺激が強いので、高齢者や病弱の人、皮膚の弱い人はできるだけ避けたほうがよいでしょう。なお、化学反応を起こしやすいので、金属性のアクセサリーなどには十分注意することが大切です。
鉄泉
鉄分を含み、赤茶色に湯が濁っているのが特徴で、炭酸鉄泉と緑ばん泉とに分けられます。
炭酸鉄泉
炭酸鉄泉は、湧出時は無色ですが、空気に触れると酸化して、すぐ赤褐色になります。土類、食塩、重曹を含むものが多く、貧血症や、婦人病、不妊症、リウマチなどに効きます。
緑ばん泉
緑ばん泉は、銅、マンガン、コバルトなどを含んだものが多く、増血作用があり、炭酸鉄泉と同様の効能があります。
硫酸塩泉
含まれる陽イオンの種類により、芒硝泉、石膏泉、正苦味泉の三つに分けられます。
芒硝泉
芒硝泉は、ナトリウムを含んだ無色透明の温泉で、"中風の湯"として知られています。高血圧症や動脈硬化症のほか、創傷などの外傷にもよく効き、リウマチ、婦人病にも効果があります。飲用すると、胆汁の分泌を促し、肝炎などの肝臓障害、糖尿病、肥満症、痛風、胆石などに効きます。
石膏泉
石膏泉は、カルシウムを含んだ無色透明の温泉で、鎮静作用があるので、芒硝泉の効能のほかに、打撲、ねんざにも効き、ニキビや痔にも効果を現します。また、ジンマ疹や痛風、痔には飲用します。
正苦味泉
正苦味泉とは、マグネシウムを含んだ無色透明の温泉ですが、なめると苦味があるのでこの名がつきました。"脳卒中の湯"として知られ、脳卒中、高血圧症、動脈硬化症によく効きますが、日本では数の少ない温泉です。便秘や胆のうの病気には飲用します。
酸性泉
日本特有の泉質
日本特有の泉質といわれ、酸味とにおいが強く、一般に高温なのが特徴の温泉です。
強力な殺菌力
塩酸や硫酸、ホウ酸など、酸を多量に含んでいるため、きわめて殺菌力が強く、水虫や皮膚病、カイセンなどに卓効があります。飲用すると、胃酸過多症、低酸症ともに効き、貧血症にも効果があります。
ふつうの人でも肌にしみ込むほどですから、皮膚の弱い人ではただれてしまうこともあります。入浴後、真水で洗い流しておきましょう。
放射能泉(ラジウム泉)
ラジウム泉と呼ばれることの多い温泉。主体はラドン。
神経痛、リウマチ、自律神経失調症に効く
ラジウムには鎮静作用があり、神経痛、リウマチ、自律神経失調症に効きます。飲用では糖尿病や痛風、不妊症などに効果があり、これらは吸入することも多いものです。なお、これは湯あたりを起こしやすい泉質ですから注意が必要です。